Target Trial Emulationとは
Good Morning!
RWDなどの観察研究データからいかに因果推論を行うか、というのは疫学における重要なトピックです。
この質の高い方法を標準化する試みがTarget Trial Emulation(TTE)です。TTEは、ハーバード疫学科のMiguel HernanやJames Robinsらが作ったコンセプトです。
といっても、実はTTE独自の解析手法というものはなく、むしろチェックリストとして機能させる類の位置付けとなります。
今回は TTEについて、そのコアとなる概念を紹介します。
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Target Trial Emulationとは
そもそもデータから因果関係をいうのに最もスタンダード(かる信頼性高い)手法は、ランダム化試験です。
TTEを学ぶ上でまずもっとも重要な点は、「ランダム化試験ができるならばランダム化試験をやったほうがよい」ということです。
TTEはよく「ランダム化試験がなくても因果関係が言える手法」として勘違いされます。実際は、「ランダム化試験がベスト、ついでTTE」となります。
ことの発端は、「観察研究のバイアスは交絡因子だけではない」という気づきです。
こんな事例を考えてみましょう:
・体重を減らす生活習慣介入の効果は、あまり劇的とはなりにくい
・しかし従来の観察研究では、BMIは非常に強く悪い予後を予測する
・この違いは、観察研究における交絡因子の調整不足だけによるとは考えにくい
TTEとは、RWDなどをつかい、実際に「生活習慣介入の効果」を推定する手法、ということになります。
TTEの要点は?
本メルマガでTTEの全てを説明することはできませんが、その要点を紹介します。基本的には、時系列データがなければ、TTEを行うことはできません。
✅介入をランダム化試験と同様にデザインすること。例えば実際の生活習慣介入では、体重が減るとしても数ヶ月単位で徐々に減ります。これを観察研究においても同じように定義しないと、当然ながらランダム化試験と同様の結果は得られません。
✅Time 0を明確にすること。ランダム化試験では、組入/除外基準により試験のeligibilityがはっきりしたあと、介入が割り振られます。RWD解析も同様にする必要があります。従来の解析ではこの時系列が曖昧、もしくは逆転することが頻繁にありえます。
✅推定する効果量を明確にすること。ランダム化試験ではIntention-to-treat effect(割り振りの効果)だけでなく、最近ではPer-protocol effect(介入の効果)も推定されます。同様のことをRWD解析でも行う、ということになります。なお、Per-protocol解析はそこまで単純でなく、時間依存的な交絡を扱うことになるため、g-formulaやIPWが必要となります。
✅その他、より色々な手法でランダム化試験に近づける。Negative control、grace period、dynamic regime、competing riskの調整など、色々な事項・解析法があります。
これらを全て統合的に考えることで、より観察研究から質高く因果効果を推定する試みがTTEというわけです。
TTEのセミナーを開催します
これを読んでも、たぶんはっきりとTTEの全体像を理解するのは難しいと思います。
TTEは大事なコンセプトなのですが、これを本気で学ぼうとすると、それなりの覚悟が必要です。
多くの人にとってこの学習機会もかなり限られており、たぶん今の所ハーバードが開催している夏のセミナーしかありません。しかもこのセミナーは、かなり因果推論に習熟している人向けで、かなり限られた研究者向けのものです。
より多くの方にTTEのコンセプトを広め、RWD解析についての「正しい」実務的な理解を共通言語としたい。そこで、mMEDICI株式会社とコラボレーションし、7/27に3時間のセミナーを開催させて頂くこととなりました。
こちらとなります:
https://merasmus-r-20240727.peatix.com/
かなり時間をかけ、入念に準備しています。
少し頭を使う、長丁場のセミナーとなりますが、色々と学びが得られるはずです。
一般公開前に100人以上の予約がありました。是非ご検討ください!
ではまた。