こんにちは、Rikです。
あけましておめでとうございます!
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さて、人種差というのは、特にアメリカでは大きな問題です。
Big pictureはこのような感じ:
黒人の方が白人より病気のリスクが高いのは、人種差に関する遺伝子/分子生理学的リスクが原因ではなく、「黒人であるからより健康に悪い環境に暴露されている」とうい社会システムが原因
というもの。
優生学という過ちが深く根ざしています。
というわけで「人種差」というのは、医学系Journalで注目されやすいわけです。
なおその解釈は難しい+専門的になります。
炎上もしやすいです。前のJAMAのEditor-in-chiefはこういうことに関する発言が原因で辞職しています。
解析自体は簡単で、どんなデータでもできますが(exposure=raceにするだけ)、例えば私はこのテーマで論文は書かないようにしています。
さて、今回の論文は、これに真正面から向き合ったもの。
Differences in Cardiovascular Risk, Coronary Artery Disease, and Cardiac Events Between Black and White Individuals Enrolled in the PROMISE Trial(JAMA Cardiol. doi:10.1001/jamacardio.2021.5340)
面白そうだと思って読んでみたら、、、びっくり論文でした。
以下の結果を読んで、ぜひツッコミ入れてくださいませ。
✔︎どういう研究?
PROMISE Trialという、安定狭心症疑いの患者をcoronary CTかstress testにランダム化して予後をみたデータを使っています。
人種(黒人 vs 白人)をexposureとして、MACEがprimary outcomeです。CT群において、CT所見もoutcomeとしてみています。
✔︎結果⇒解釈は?
ベースラインでは心血管リスクは黒人の方が白人と比して悪かったです。
MACEに関しては、交絡因子調整後も人種差はなかった(HR=1[0.69, 1.46])
しかしCT所見は、黒人の方が白人より良かった(冠動脈狭窄率、高リスクプラークや石灰化率が低いなど)。狭窄率以外は交絡因子調整後も有意だった。OR 0.66[0.51, 0.84]など
しかしCT所見とMACEの関連性は、黒人と白人で同じだった:
黒人はHR: 7.2[1.9,26.8]
白人はHR: 4.2[2.6,7.0]
など。
よって、
黒人の方が心血管リスクは高いけど、CT所見はむしろよく、MACEのリスクは同程度だった
と解釈しています。
✔︎え。。。?
いやいや何その結論!!!どういう意味!?!?
黒人は心血管リスクが高いけど冠動脈に石灰化は生じにくいけどMACEはかわらなそう。
どういうこと??
一つ一つ結果を解釈していきましょう。
■白人と黒人のMACE頻度は同程度だった。
信頼区間は広いですが、HR=1だし、それは言えるかもしれません。
・Power calculationは行われていない(n数に偏りがあるのでpowerは低い)
・RCTに参加したというselection biasがある(コホートがBETTER)
・K-MをみるとProportional hazardが成り立っていない
・MACE頻度は3%程度とかなり少ない
・信頼区間が流石にかなり広くて結果の信頼性が低い
など数々のlimitationがありますが、許容することにします。
■黒人の方が冠動脈石灰化が少なかった。
これはlogistic regressionで有意だったことが根拠。
でもこれはcross-sectional analysisです。因果関係は言えません。
「このselection biasがかかっている集団において」黒人の方が石灰化が少なかった、と言えるに過ぎません。
■これを並べて結論になるか?
単純にこれを並べてconclusionとしていますが、それはconclusionと呼べるのでしょうか?
厳しいです。
これから示唆されることは、
・黒人のMACEは、白人と比較し、冠動脈石灰化を仲介しない(石灰化は重要でない)
・MACEには人種差がない
ということですが、これを主張するにはそもそも中間因子解析が必要です。
また、冠動脈石灰化も中間因子でなければなりません。
つまり、「冠動脈CTに異常がない白人黒人を定期的にCTでfollow-upし、石灰化の出現頻度をみる」というコホートが必要になります。「定期的」が現実的でなければ、「5年後に」とかでもOKです。
いずれにせよ、characteristicsが黒人 vs 白人でfairなコホートで比較をしなければ、人種をexposureとして論じることは難しいわけです。
■CT所見とMACEの関連性に人種差がなかった??
これが上記の批判に対する著者らの根拠かと思われます。
が、当然全く根拠になっていませんね。そもそも「人種差がない」と主張するには、人種*CT所見というinteractionが必要。もしやっていたとしてもおそらくp>0.05となりますが、それは単純なpower不足です。つまり検証しようがないということです。
そもそものHRの信頼区間が広過ぎて、何も意味あることは主張できませんね。
✔︎まとめ
ふわっとした論文でした。トピックが重要なだけに残念です。
journal clubでこういう論文を選ぶと炎上しやすいので気をつけましょう。
ご意見、感想、批判などありましたらコメントいただけると嬉しいです!
ではまた!
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