【観察研究でNEJMを目指す】蓄尿Naと心血管病の関連性
こんにちは、Rikです。
メルマガ購読いだだきまして、本当にありがとうございます!
今回の論文は、NEJMより:
24-Hour Urinary Sodium and Potassium Excretion and Cardiovascular Risk
蓄尿のNaやKと心血管疾患の関連性をみた観察研究です。
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NEJMにはほとんどRCTしか掲載されませんが、このように時々観察研究が載ります。
この研究は何が新しいのか解説し、どうやって観察研究がNEJMに載ることになるのか、考察しました。
観察研究が「質の高い」ものだと思われるためのポイントにも繋がりますので、要チェックです。
塩分摂取と心血管疾患の因果関係ははっきりしてないの?
塩分が心臓に悪いとは数十年前から言われていることで、数多くの研究が行われ、ほぼ常識となっている感があります。
ではそれ以上探求する必要はないのでは、、と思われるかもしれませんが、一箇所controversialな部分があります。
それは「塩分を摂らなすぎるとむしろ悪いのでは」という主張。
実は最近の疫学研究では「そんなことない」ことが示されてきているのですが、コンセンサスには至っていないようです(当校ではそのように習いますが)。
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*でもそれって些細な問題では?と思った方。
自分はそう思います。
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実はそれよりも重要な、栄養疫学の根本的な問題があります。
それは、「塩分摂取量を正確に測定することは非常に難しい」というもの。
多くの研究は質問票で栄養分摂取量を推定しますが、特に塩分においてはその正確性がかなり低いことが知られています。
ですので「そもそも当てにならない手法で検査しているものをexposureとして議論するのはいかがなものか」という批判があります。
スポット尿でもNa摂取量を推定できますが、当然正確ではないですね。
そこで本研究では「24時間蓄尿を2回行った平均値」でNa摂取量を推定してつかってみた、というわけです。
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どういう研究?
NHS,NHS2,HPFSというハーバードの有名コホートに加え、PREVENDというコホート、TOHP1とTOHP2というRCT + observational follow-upという6つのコホートを使いました。
これはsystematic reviewで候補を選んだということです。
*が、おそらくそもそもはfeasibilityの観点でstudy selectionしたものと思われます。
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それぞれでNa,K排泄量もしくはNa-K比をexposureとおいて、COX proportional hazard modelでHRを計算、random-effect modelでpoolingした、という単純な研究です。
当然non-linearityが問題になるので、penalized splineで関連性を評価しています(こちらはmeta-analysisが難しいので、単純にpoolingしたデータを使っています)
なお、reverse causation(状態が悪いせいで塩分摂取量が低いという状態)回避のため、心疾患の既往を除外したり、exposure測定後1年以内にイベントがあった参加者を除外したりしています。
結果は?
塩分とるとリスクが高く、カリウムとるとリスクが低くなる関連性が認められました。
塩分摂取量が非常に少ない場合、リスクが高くなることはありませんでした。
観察研究でNEJMに載るポイント
ということで結果は予想通りだったわけです。が、それもNEJMにとって重要なポイントかと思われます。
読み込んでいくと、いくつか重要なポイントが見えてきます。
5点ほど紹介して参ります。
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1)有名な「疫学研究手法のlimitation」に向き合うこと
Naのmeasurement errorは栄養疫学では常識です。以前NEJMにのったこの観察研究も、Obesity paradox(reverse causation)という有名問題に向き合ったものでした。
他に何か思いつくでしょうか?
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2)Exposureがランダム化可能なものでないこと
これは必須です。具体的には薬やデバイスだとランダム化可能なため、「RCTやれや」でeditorial kickです。
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3)有名な大規模コホートを複数使うこと
この基準でいくと、だいたいがNHS,HPFSに基づくハーバード関連の研究となってしまい、実際そうです。例外的にCOVIDでイスラエルのデータを使った観察研究が複数publishされていますが、これはハーバードの疫学グループがleadしたものです。NEJMのofficeはハーバードにあり、よくeditorとmeetingが行われており、参加してみるとeditorがハーバードのコホートや理論研究者を一目置いていることがわかります。ですので、観察研究でNEJMに載せる一番の近道はハーバードに留学することかと思われます(マジです)。
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4)複雑な統計手法を使わない
NEJMはreaderのことをかなり考えており、基本的に多くのclinicianが理解できる内容のものしか掲載しないポリシーです。今回もCOX modelとmeta-analysisしか使っていません。
これは、classicな疫学研究(DAGとか因果推論がpopularとなる前)を好むepidemiologist/statisticianがeditorに多いことも影響しているものと思われます。
*最近例外があり(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2105911)、界隈では話題になりました。
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5)有名研究者がleadした研究であること
これはしょうがないですが、ある程度事実かと思われます。
*そうでないものも当然あります
まとめ
RCTを立案から行うのは大変です。
上記1)~5)の沿って研究を行い、観察研究でNEJMを目指しましょう!
ご意見、感想、批判などありましたらコメントいただけると嬉しいです!
ではまた!
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