マルチビタミンは意味がない!?
Good Morning!
最近SNSを賑わせている論文があります。
「マルチビタミンによる生存率改善が認められなかった」と結論したものです。
この著者らは、「それでも多くの人はマルチビタミンを飲んでいる・・」と、非常にマルチビタミンに対し否定的な意見を述べています。
今回はこの論文の解説を行います。
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39万人を対象とした研究でマルチビタミンと死亡率の関連性は認められなかった。
話題の論文がこちら、 JAMA Network Openに掲載されたものです:https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2820369
この研究のデザインは以下の通りです:
・AARP, PLCO, AHSという、米国の大規模コホートに基づいたものです。が、ほとんどがAARPです(39万人中33万人)
・マルチビタミンの服用は「自己申告」で調査しました。ベースラインと数年後の2回調査がありました。サプリの種類は問わず、「全く服用していない」「服用しているが毎日でない」「毎日服用している」の3群にわけました
・20年以上フォローしたデータがあり、アウトカムは死亡です
・たくさんの交絡因子で調整したCox proportional hazard modelをつかいました
この結果は以下の通りです:
・Coxモデルの仮定(proportional hazard)が成り立っていなかったので、フォローの前半と後半にわけて解析しました
・前半では、マルチビタミンを毎日飲んでいる人は、全く飲んでいない人と比較し、4%ほど死亡率が高かったです
・後半では、同じ比較で、2%ほど死亡率が低かったです
・毎日でなく飲んでいる人 vs 全く飲んでいない人の比較では、マルチビタミン服用者は前半では6%死亡率が高く、後半では8%低かったです
これをうけ、著者らは「マルチビタミンは意味がない」と示唆していると解釈しています。
これはマルチビタミンの「効果」を検証したものではない
結論ですが(著者らも多分わかっていますが)、この研究はマルチビタミンの効果を言及したものではありません。これを説明していきます。
・まず、「飲んでいる人 vs 飲んでいない人」の比較は、その薬の効果を言えないことは、特に薬剤疫学領域で広く知られています(prevalent user designともいいます)。なぜかというと、RCTで検証することは「その薬を飲み始めるかどうか」だからです。「飲んでいる」と「飲み始める」は全く違うものをみています。
⇒たとえばスタチンを「飲んでいる人 vs 飲んでいない人」で比較すると、肺がんリスクが80%も低いという”効果”が認められてしまいます。そんなわけないですね(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31591592/)。
・前半と後半で区切ってますが、前半にリスクが高かったのは「健康でないからサプリを飲んでいだ」こと、後半にリスクが低かったのは「そのような方が亡くなってしまった」ことをみているにすぎない、ということを否定し得ません。
・あと、サプリ服用を2回しか測定しておらず25年間フォローしていますが、これは粗すぎです。1ヶ月服用しているのと10年服用しているのは全然意味が違います。
・サプリの種類を問わないというのも強引です(詳細は後述)。
そもそもこのような「関連性をみている」観察研究で因果関係は言えません。このような観察研究とRCTで結果が異なる事案が多くあったから、今の西洋医学がRCT絶対主義になっているわけです。
そのためにTarget Trial Emulationのような、観察研究から因果関係を言うための解析法が提案されてきているのです(セミナーやります:https://merasmus-r-20240727.peatix.com/)。
そもそも全死亡を予防できるとは期待されていない
本研究のprimary outcomeは全死亡ですが、マルチビタミンが予防の集団で全死亡率を低下できるような介入とは考えられていません。そんなもの夢物語です。
予防の集団というのは非常に雑多です。よい生活習慣の人も悪い人も、病気のリスクが高い人も低い人も、いろいろいます。これら全ての人に対して全死亡率を下げるような予防的介入というのは、現状ありません(感染症に対するワクチンを除く)。
全死亡というもの自体、非常に雑多です。仮にがんを予防できても、その代わりに心筋梗塞になるリスクが上がります。全死亡を低下させるには、非常に多岐にわたる病気の予防効果がなければならず、それは一つのシンプルな介入(サプリなど)では、ほぼ絶対に達成し得ません。
実際、いままでの研究でマルチビタミンで効果が最も期待されているのは、がん発症の予防(がん死亡の予防ではない)と認知症の予防です。これを検証しない限り、あまり新規の価値はありません。
また、特にがん発症については、ある程度しっかりした量のビタミンDが重要だと言われています。マルチビタミンでもビタミンD量が少ないものはたくさんあり、サプリの種類による影響はかなり大きいことが考えられます。その意味で、観察研究でサプリの種類を区別しないのは、かなり強引です。
マルチビタミンサプリは意味あるのか?
本研究はあまりエビデンスには貢献しないですが、誰がマルチビタミンサプリを飲んだ方がよいかは、まだはっきりしていません。そういう意味でエビデンスは十分でありません。
しかし「エビデンスが十分でない」ことは「効かない」こととは異なり、RCTではむしろ効果が示されてきています。
ですので「マルチビタミンサプリを飲むべきか?」と聞かれたら、shared decision makingが必要になります。
ではまた!