ゲームは幸福度を上げるか
Good Morning!
最近みつけた面白いトピックの論文を紹介します。
「ゲームは幸福度を上げるか」というもの。日本発です!
ゲームをした方が良いのか悪いのか、議論がありますね。これに一石投じる研究かもしれません。
今回はこの論文の解説を行います。
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日本人10万人を対象とした研究で、ゲームの購買は高い幸福度の原因であった
この論文がこちら、 Nature Human Behaviorに掲載されたものです:https://evidence.nejm.org/doi/10.1056/EVIDoa2300361
この研究、ニンテンドーswitchとplay station 5の購買抽選を用いた研究です。購買できるかが抽選で決まるので、その部分がランダム化されるため、ランダム化試験のように解析できるという話です。
しかも「買いたい人しか抽選に応募しない+抽選に当たらなければ買えない」という条件付きなので、Instrumental variable analysisに必要なMonotonicityというassumptionが成り立ちます*。普通assumptionは「成り立つかどうかわからないからassumption」なので、これは非常に強い研究デザインです。
*Monotonicityとは、「もし抽選に外れたとしても買う+もし抽選に当たったとしても買わない」という特徴を持つひとがいない、という仮定です。
アウトカムはK6, SWLSという質問票で調査されたwell-beingです。
結果、さまざまな解析で一貫して「ゲームが買えると幸福度が上がる」ということが示されました。
しかし、いくつか大事なlimitationがあるな、という印象です。これらをまとめていきます。
コロナ渦にゲーム機の抽選に応募した人が対象ということ
このstudy designにおける最も根本的なポイントは、対象者が「switch/PS5の購買の抽選に応募した人」ということ。
これは非常に重要で、なぜなら「初期に応募するほどゲーム機が欲しい人」だからです。それなりにゲームが好きな人でも、初期の初期から応募した人は、かなり限定的なはずです。
するとより正しい研究結果の解釈は「初期に応募するほどゲーム機が欲しい人の中で、抽選に当たってゲーム機を所有できたことで幸福度が上がった」となります。
これは当たり前かもしれません・・・・。
また、コロナ渦だったというのもポイントです。厳しい外出制限があり、新しいゲームができることが幸福度が上がりやすい状態であったと言えるでしょう。
どの時点のアウトカムなのか
K6とSWLSでの調査は5回にわたり行われていますが、今回の研究はこれらのデータをどのように用いたかが、論文を読む限りはっきりわかりませんでした(私の見落としでしたらすみません・・・)。
「ゲームの幸福度への影響」をいうに当たっては、それがどのくらいのインターバルの話なのかは、非常に重要です。ゲーム機があたって数ヶ月なら、自分がやりたかったゲームにハマっている真っ最中であり、幸福度が高くなって当然、という見方もあります。新しいゲーム機でゲームをすることが日常の一部となったことが幸福度にどう反映されるのか知りたければ、たぶん1-2年後より長いインターバルでの調査が必要でしょう。
そのデータはありそうですが、論文では「repeated cross-sectionalとlogitudinalをmixしたデザイン」としか触れられておらず、解析法が不明でした。
実は時間依存性exposureの話
メルマガでも度々出てきますが、時間依存性exposureをきちんと調整することは非常に難しいです。
実はこの研究はまさに時間依存性exposureです。Supplemental Figure 9にある通り、一回目の抽選が当たった人は二回目の抽選には応募しません(普通は)。するとsequential randomizationという建て付けになり、ITTを求めるにしても基本的にはmarginal structural modelかg-formulaでの解析が妥当かと思われます*。ただデータ構造がはっきりわからないので、「たぶん」です。
*1回目の抽選だけ、もしくは2回目の抽選だけ、といった解析を行うなら普通の方法で問題ありません。しかしそもそもITTの「抽選にあたった」影響を言うにあたり、その抽選回数はとても重要なファクターです。これをしっかり言及するには、longitudinal dataでg-formulaを使った解析が必要です。
ゲームがwell-beingに良いかは研究のしがいがあるトピック
とは言っても面白い研究です。よりwell-definedなcausal questionは、「well-beingを上げるためにゲーム機を持っていない人がゲーム機を買った方がよいか」というもの。これがゲーム機が欲しい人を対象にしてしまうと、あまりpublic healthに寄与するインサイトは得られないかもしれません。購買抽選に応募するほどのゲーム好きではないけど、ゲームがある生活がどのようなインパクトがあるのか、というのが知りたいです。今後の研究に期待です。
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ではまた!